頭から蒸気の記

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「乳と卵」芥川賞受賞インタビュー     川上未映子

 第138回芥川賞を受賞された川上未映子さんの「乳と卵」を雑誌上で読んだ。非常に良い作品で、私の嗜好にも合っており、ゆえにとてもおもしろかった。特に描写にそこはかとなく流れるユーモア感覚みたいなものは、天性を感じますなあ。
 新人作家の純文学作品というのは書店でも手にとりづらいし、そもそも書店に並ばない、ゆえにインターネット書店で検索するわけもなく、という状況が私にはあるから、芥川賞というのはその設立当初からの役割をちゃんと果たしているよなあ、と思う。

 まあそれはそれとして、ここでわざわざメモをあげさせてもらうのは、川上未映子さんの受賞者インタビューについてである。
 現実によい作品を作り出し、さらに才能が十分にうかがわれ、インタビューのなかからその聡明さと生活者としての安定感が感じられる作家の言葉、として読むと、実に興味深い発言があったのだ。

 インタビュー中、記者の「今後、どういう作品を書いていきたいですか」という定番の問いに、社会学者の宮台真司氏の「今なぜ若い子にケータイ小説が受けるのか」についての見解を引用して述べているのだが、そこに私的に「おっ」と感じた発言があった。
 インタビュー記事からそのまま書き写すと、

『(前略)〜、彼女たちの人付き合いが刹那的だからだというんですね。彼女たちは週替わりで相手を変える。でも、それはすれっからしだからではなく、ピュアすぎて傷つくことが怖いから、問題が起きたらすぐ別れてしまうんだと。ケータイ小説もそういう乗りなんですよ。「強姦された! 頑張れよと言われた。だから頑張る」みたいな(笑)。わかりやすいといえばわかりやすいけど、彼女たちはそういう表現にしかシンパシーを持てない。純文学が扱うような深い人間関係を照らす文章は、傷つくからアクセスできないんだそうです。傷つくことが本当に怖いんですね。〜(後略)』
 というもの。

 この問題意識に対しての川上さんの(少なくとも現時点での)答えは、

「出来ないわけがないですよね。実際、村上春樹さんは出来ている。」

 なんである。

 この発言は前後の文脈からして、「村上春樹のような作家になりたい」という意味だけにとるのは、少し違うんじゃないかと思いました。

 むしろ、

「私は”深い人間関係を照らす文章”で”彼女たち”に気持ちを伝えてみせる」

 という心意気そのものなんじゃないだろうか。

 そうだとしたら、すばらしく凛々しく力強い姿勢だよなあ。

”やろう。なぜならそれは不可能ではないから”

 読者である”ケータイ小説を読むひとたち”をあなどって、上から見下ろして、理解しようとさえせず、なんならその形式だけ真似てやろうか、なんてニュアンスがひしひしと伝わるような発言を繰り返す、一部出版業界の人間には耳の痛い話ではないだろうか。
 
「誰にでも伝わるテーマと書き方をしながら、読み終えたときには必ず読者の目盛りを三ミリ上げてくれる」作品。

 一読者として期待せずにはおられません。

JUGEMテーマ:読書


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